【ポリヴェーガル理論とは】
ポリヴェーガル理論(多重迷走神経論)とは、1995年ステファン・ポージェス博士によって発表された神経系の新しい理解です。
今までは、人の神経系の働きは大きくわけて『交感神経系と副交感神経系』というのが一般的な理解でしたが、博士は人類の進化の過程から副交感神経に含まれる二つの迷走神経の働きに注目しました。それが、人らしい動きを司る『腹側迷走神経系』と、原始的な動きを支配する『背側迷走神経系』です。
・腹側迷走神経系(副交感神経系)がヒトらしいコミニュケーションなどに関わる
・交感神経系:神経の高ぶり、緊張などに関わる(良い感じの場合、やる気・活発など)
・背側迷走神経系(副交感神経系):凍りつき・極度のストレス時に関わる(良い感じの場合、深い休息や排泄、呼吸など生命の維持活動など)
この神経系の働きをとても大雑把に言うと、信号の【青・黄・赤】のようなもの。と言えます。この働きを理解することで・・・
・今、自分はどのような状態にいるのか。
・それはなぜ、そのようになったのか。
・この状態から抜け出すにはどうすればよいのか。
などを知り、より快適な状態になるよう、自分でできることも見つかります。いわゆる「自律神経を整える」ということから、より丁寧に身体や心の状態を理解し、しっかりアプローチするができます。また、セラピストがクライアントの神経系の状態を理解することで、より安全で安心なセッションを提供することができるでしょう。
【理論】
ポリヴェーガル理論は、爬虫類~哺乳類への脳や身体の進化の過程を通して得た生物学的な発達の視点から、哺乳類のみが独自にもつ自律神経系を科学的に説明するものです。
この神経の発達の過程を順序立てて理解することはヒトの落ち着いた状態やストレス状態(圧倒やフリーズなど)を見極めるのに役立つ。また3つの神経系の特徴を知ることで、クライアント(や自分)の自動反応を理解したり、過剰な反応を予防することにも役立つでしょう。
【ポリヴェーガル理論の成り立ち】(かなり短縮しています。)
地球は時間をかけて成長していった。その進化の過程をウイリアム・スミス(地質学者)の死後、ダーウィンが引き継いだ。それをまとめると…
・地球は順に成長していった(地質からみて)。
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・生物も同じように順に成長していった。
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・私たち人間の体の中には生物の進化の過程が残っている。ヒトは突然発生したのではなく、適応しながら変化する、というこを繰り返していった。
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・太古の昔、一番進化していたのは骨もなく軟骨と神経系だけの無顎類。これはゆっくりと物を消化・排泄する、というこの二つの機能だけを持つ。これが背側迷走神経(DVC)の起源。
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・時間が経ち、新しい神経系を持つものが現れた。特徴はゆっくり動く、そして速く動く、ターンして向きを変える、など。これがあることで自己防衛の行動を取れるようになった。(DVCから派生したSNS)
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・そこから水を出て陸へ上がる両生類。(水から陸へジャンプ。この動きが交感神経系)そこから進化して爬虫類。トカゲ・蛇など。この二つの神経系(ゆっくり&速い、酸素をキープ&戦う)などの時代が二億年。
↓
・しばらくして、ネズミのような生物(哺乳類)が地下に生まれた。(地上には恐竜)この哺乳類の誕生が腹側迷走神経系(VVC)。三つ目の神経枝を作った。今まではONかOFFだけだったのがOFFをしながらも調整できるようになった。
(※背側迷走神経系から腹側迷走神経系というヒトらしい動きを司る神経系が生まれた。)
・ちなみに胎児も母体の中で魚→トカゲ→ヒトのように、胎内で進化を辿る。
・大雑把にいうと、遅い・速い・洗練された、という3つの特徴の神経系である。
【人を支配する3つの神経系】
<青信号> 副交感神経系:腹側迷走神経系
・VVC:Ventral Vegus Complex
・ヒトらしいコミニュケーションを司るもの/哺乳類
◯目、耳、口、のど周りの神経。また、首の動き、発声、心臓と肺のペースを保つ/脳、食道、心臓、肺
◯人間にとって自然な状態/するべきことを自然にできる/心地よい円滑な人間関係を育む/絆の形成と愛着の過程に不可欠
◯動きやすいニュートラルなエネルギー/自発的なソーシャルエンゲージメント/制御を判断できる/好奇心/環境の安全を読み取る
<黄信号> 交感神経系
・SNS:Sympathitiv Nerve System
・神経の高ぶり、危険時に優位/硬骨魚、両生類、爬虫類から
◯顔面に限定/内臓器官/視床下部、下垂体、副腎系
◯危険時に優位/活動と準備/痛み、熱さの感覚を感じて伝える/性的興奮/日常の活動、集中力、努力/生き残り反応を司る→闘争・逃走のためのエネルギーを準備/代謝を司る
◯スピードアップしつつあるハイエナジー/素早い判断
●-危険時には-自己防衛の活性化(逃走・闘争に使われる)/エネルギーの準備/代謝
●-トラウマ由来の蓄積したストレスがある場合(慢性的に優位な状態)-
不安、パニック/絶え間ない緊張/繰り返す攻撃性/過度の警戒/怒り、恐れ/激しい苦痛、動揺
<赤信号> 副交感神経系:背側迷走神経系
・DVC:Dosal Vegal complex
・もっとも緩やかな植物的な迷走神経系/古代魚から
◯心拍数/呼吸/内蔵
◯致死的状況でニューロセプションに優位/酸素の確保/
◯休息/消化、排泄/睡眠/オーガズム/恐れを伴わない不動/ローエナジー/ゆっくり判断/停止/酸素をあまり使わない
※日常の消化と体の回復に不可欠。絆の形成と愛着過程の一部。
●-危険時には-
シャットダウン/停止/消極的な自己防衛反応(凍りつき・不動)/感じることの低下(痛み、感情、感覚)痛みを軽減する神経化学物質も出す。
●-トラウマ由来の蓄積したストレスがある場合(慢性的に優位な状態)-
うつ/低エネルギー状態/しびれ/乖離
【反応と神経系の処理】
内部や外部で精神的、身体的、環境的に何かが起きる。
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ニューロセプション(神経受容でフィルターする。)そして、以下の1、2、3、いずれかの反応になる。
(※必ずしも順番通りではない)
↓
1)十分安全だとわかると…VVC(青信号)自発的オリエンテーションが働く(会話するなど)
2)危険を察知すると…SNS(黄信号)逃走・闘争、心拍数上がる、恐れや不安が強まる、筋緊張、消化、回復遅くなる
3)生命の危険があると察知すると…DVC(赤信号)凍りつき反応、心拍や呼吸が減少、筋緊張弱まる、痛み減る、何も感じなくなる、反応が非常に遅くなる(乖離)
【セラピストがセッションのときに生かせること】
・部屋に入ってきたときのクライエントの状態(姿勢、目の動き、挙動、声のトーン、顔の筋肉が随意でどれぐらい動かせるか、など)で、
神経系がこの辺の状態だ、と見立てができる。(その後のセッションを安全に進められる)
・この人の中で何が起きているのか?を理解するのに役立つ。
・クライエントがどのパターンにはまっているのかを知る。そしてセラピストが神経系をどう変化させるか。
【ポイント】
・ポリヴェーガル理論は「社会神経系」を軸にヒトの状態・行動を理解する。
・今まで『交感神経系・副交感神経系』の二種類で捉えていたものを、ヒト(哺乳類)が持つ独特の神経系(迷走神経系)からみていくことでストレスや症状への理解が深まる。また、クライアントの状態の背景を理解することでクライアントへの理解も深まり、より適切なアプローチをすることができる。
・トラウマの特徴を深く知ることができる。(安全なセッションを提供できる。)
・自分自身の理解に役立つ。
・セラピストとしてのスタンスにも役立つ。(神経系の共鳴)
【神経系の安定としてできること】
・深く吐く、ゆっくり吸う、深呼吸を何度か繰り返す
・周りを見渡すように首を動かす(物を見る、認識する)
・コミニュケーション活動をする(誰かとしゃべる)
・EFTをご存知の方はタッピングを♪
・ほか、神経を整える方法自体はたくさんありますので、好きなもの、やりたいものを見つけてみて下さいね。
※この記事は2016年に開催されたアンソニー・ツイッグのセミナーを参考にしています。とてもわかりやすく教えてくれました。
ツイッグのサイトはこちらです。(英文です)>>アンソニー・フィラー(ツイッグ)HP
※ポリヴェーガル理論の全てを網羅するものではないため、より詳しく専門的に書かれたサイトなどもご覧ください。ここでは簡易的にまとめたものを書いております。
<<お勧めのサイト・文献など>>
☆>>ポリヴェーガル理論-人間にとって安全とは何か?- 丸太ギリさんの書かれた論文
☆お勧め書籍 ※2018年11月追記
◯「今ここ」神経系 エクササイズ/著・浅井咲子